萬華百年イカあんかけ ─ 両喜号
1921年、萬華龍山寺消防隊のそばで、18歳の少年・陳両喜が天秤棒を担いでイカあんかけを売り歩いた。寺の広場には信仰者が絶え間なく通い、お参りやおみくじを求めて、龍山寺の立ち上る白い煙とともに、朝飯から夜食まで賑わった。
一つのあんかけ、二つの味、一碗に両喜
両喜のイカあんかけには、シャキシャキと甘香るイカの切身と、彼が手捏ねする新鮮で甘美なカジキマグロの団子。一つのあんかけで二つの味、二つの海の味が引き立て合う。二代目・陳清水が龍山臨時市場に屋台を出し、席は五六席とはいえ、相変わらずのにぎわいだった。
1989年、三代目・陳秉駿が継ぐ。復員と同時に家業を引き継ぎ、結婚・子育てへ。しかし3年後、龍山市場はMRT龍山寺駅建設のため取り壊され、ゼロからの出直し。西園路の軒下に屋台を出すことになった。両喜号で最も苦しい時代、深夜に出店し、店が閉まってから商い。若き夫妻は風雨・台風も休まなかった。
馴染みの場所を離れ、客は一から。遠くから「昔のイカあんかけを食べに来た」と訪れる常連に救われた。「頑張る二人を見に来たんだ!」の言葉が何よりの励み。2003年、ついに広州街に自分たちの店を構えた。
イカの高騰で、多くの店はイカを細切れにし、魚のすり身を厚く巻いた。両喜号は曾祖父母の recipeを守り、新鮮イカ切身とカジキ団子を貫いた。当時、街では一碗10元なのに両喜号は15元。「本物はわかる人にわかってもらえばいい」と。
ビーフン炒めももう一つの看板。特製ソースを吸ったビーフンに、香ばしいエシャロット油で炒め、秘伝のニンニクソースをかける。イカあんかけ一碗とビーフン炒め一皿は、祖父母の時代から今まで。三代・秉駿夫妻の手で、ルーローハンや各種あんかけも加わった。
老萬華の味覚記憶
百年の家業は四代目・陳輿安が背負う。花開いたロックの夢を捨て、注目のステージから湯気立つ厨房へ。彼を育てたベテランおばちゃんスタッフと肩を並べる。2019年、「台北づくり」店舗再生プログラムに参加、老舗に新風、萬華の文化を纏い百年の歴史と新しい物語を語る。
長年の間、両喜号は萬華っ子の共通の記憶に。『モンガ』の撮影にも登場。「ボス、イカあんかけ5杯テイクアウト!」メニューに「廟口用」と記された名セリフとシーンが、何世代もの萬華の青春を再現した。
百年前の龍山寺広場から龍山市場、西園路亭仔脚を経て、広州街夜市に根を張る。萬華のイカあんかけは、龍山寺の風華を百年越えて、今も「一碗・両喜」の新鮮な味わい。